扉を開くと、そこには――

【主人公】「……!」

鍵盤に突っ伏す颯斗君の姿があった。

窓側を向いているから、顔は見えない。

だけど、背中が悲しそうで、私は一瞬声をかけることをためらった。

すると、ゆっくりと颯斗君が私の方に顔を向けた。

【青空】「……どうしてここに?」

一瞬驚いたような顔をしていたけど、すぐにいつもの優しい笑顔を浮かべた。

泣いてるのかと思った……。

勘違い……ならいんだけど……。

【主人公】「……ピアノ、すごい上手だね! 颯斗君がこんなにピアノを弾けるなんて知らなかったな」

【青空】「こんなの上手とは言えませんよ。 もっと上手い人はたくさんいます。 僕なんか足元にも及ばない」

【青空】「……あ、でも褒めていただいたことは嬉しいです。 ありがとうございます」

そう言って微笑むと、颯斗君は鍵盤の蓋を閉めようとする。

【主人公】「もう止めちゃうの? すっごくいい音色だったのに」

【青空】「久しぶりに弾いたのですが、やはりまだまだです。 指が走らないし、音を解放できてない」

【青空】「ピアノは正直だ。いつだって僕を拒絶する……」

【主人公】「えっ?」

【青空】「いいえ、何でもないですよ」

完璧な笑顔で微笑む颯斗君。

完璧すぎて、なんだか無理しているように見えた。

【主人公】「颯斗君は音楽部だったよね?」

【青空】「えぇ。今日みたいに練習がない日はたまにこうしてピアノを弾いてます。僕1人なら、いくら騒音を出しても文句言われませんしね」

【主人公】「颯斗君は謙遜しすぎだよ。とっても素敵だったよ! 颯斗君らしい優しくて繊細で、綺麗な音色」

【主人公】「もう少し聞いていたいな。 お願いできないかな?」

【青空】「あなたのお願いなら仕方ありませんね。 それじゃあ、あともう少しだけ」

颯斗君は背筋を伸ばして席につくと、長い指を鍵盤にそっと置いた。

どこか物悲しくて切ないメロディー。

そっと目を伏せて鍵盤に指を走らせる颯斗君の姿が音色とともに私の心に迫ってきた。

その時、私は初めて、颯斗君の心の内をかいま見たような気がした。

うまく言えないけど……自由を欲して空に手を伸ばすけれど、同時に、心の扉をかたく閉ざしているような……。

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