――3月27日、日曜日。
私は、レーヴ・パッフェとappleーpolisherの合同ライブの会場『エジリンホール』へと足を運んだ。
物販には今回のライブ名
『もっとApple-Parfaitを召し上がれ❤』
と書かれたタオルやTシャツが売られていた。
会場の前には若い女の子達が多いけど、中には男性のファンもいるようだ。
みんなライブTシャツを着て準備万端、といった様子が窺える。
ファンの子達が持っている小物は、大体がピンクか緑に分かれていて、見た目も鮮やか。
他にも、各メンバーのカラーを差し色に使ったりと、みんな、なかなかに凝っている。
(こういうのっていいなあ)
見ているだけでワクワクしてしまう。
私まで楽しい気持ちになりながら、その横を通り過ぎて関係者入り口へと向かった。
受付まで向かうと、すでに女性が1人受付を済ませようとしているところだった。
私は、その人とは違う方の受付のスタッフに誰からの招待かと、自分の名前を伝える。
【ライブ会場受付】「これをどうぞ」
【美羽】「A-39ですね。ありがとうございます」
関係者パス、と書かれたネックストラップを受け取りそれを首から下げながら受付を通り過ぎようとした。
【???】「ええ!? 私の名前ないの? 嘘!?」
真横でそんな声が飛んできて視線を向けると、私より先に来ていた女性が、まだ受付にいた。
私に比べ一回り小さなその人は、可愛らしい頬をぷくっと膨らませる。
【???】「くそっ、音石のヤツ……! 自分から呼んだくせに、面倒くさがって手配忘れたんじゃないでしょうね!?」
(可愛い顔して、口調が荒いな……)
呆気に取られて見ていると、その人はスマホを取り出しどこかへ電話をした。
けど、またすぐに『もー!』と文句が上がる。
【???】「なんでこういう時に限って出ないのよ!」
それから彼女は舌打ちすると、スラングを発した。
(さらっとスラングが出てくる辺り……アメリカに住んでいたのかも)
苦笑しながら足を進めようとして、はっと思い出す。
【美羽】「音石って……音石夕星?」
思わず声に出してしまっていた。
私の声に気付いたその人が、振り返る。
【???】「あなたは……?」
【美羽】「ごめんなさい。つい聞いちゃって……」
【美羽】「あの、もしかしてあなたもappleーpolisherの関係者ですか?」
【???】「あなたもって言ってたけど、そっちもあいつらの関係者なの?」
【美羽】「ええ、そうなんです。あなたは……」
【???】「関係者……と言えば、関係者なのかな? そう言われるのは癪に障るけど」
【美羽】「え……」
【???】「ああ! 別にアッポリが嫌いってわけじゃないの。
ただ……音石にそう思われるのが……」
【???】「って、何言ってんだろ、私。ごめんなさいね」
【ライブ会場受付】「あの……すみません」
【???】「はい?」
私が話している間に、受付のスタッフが確認してくれたらしくどうやら連絡ミスだった事が判明した。
【???】「やっぱり! 音石のヤツ、後で絶対とっちめてやるんだから!」
彼女は怒りをあらわにしながら改めて受付をし、ネックストラップを受け取った。
【ライブ会場受付】「これをどうぞ」
【???】「ええっと……A-38ね。ありがとうございます」
【美羽】「あ……席、隣ですね」
【???】「ホント!? じゃあ、一緒に行きましょ」
頷いて、彼女と一緒に歩き出す。
【美羽】「無事に入れて良かったですね」
【???】「本当よ。ここまできて回れ右しろって言われたら、私、絶対音石を恨んでたわ」
【美羽】「夕星は本当に気まぐれなんだから……」
【???】「夕星って、あなたも音石の被害者なの!? 可哀想に……」
【???】「って、やだ私ったら。まだ名前言ってなかったわね」
【歌奈】「私は末永歌奈よ。よろしくね」
【美羽】「柊美羽です。こちらこそよろしく。末永さん」
【歌奈】「そんな堅苦しく呼ばないで! 名前でいいわよ、美羽」
【美羽】「歌奈さん、よろしくね!」
歌奈さんと握手を交わすと、彼女は快活そうな笑みを浮かべた。
【美羽】「歌奈さんも、夕星の被害者ですか?」
【歌奈】「そうなのよ! あいつ、顔を合わせれば私の事、ブスブスって! 失礼しちゃうわよね!」
【美羽】「私もです! 何が気に入らないのか分からないんですけど初対面の時からずっと言われてて……」
【歌奈】「ホント!? こんな可愛い子捕まえて!?」
【歌奈】「はあ、音石に手を出されるのも迷惑だけど、ケンカふっかけられるのも迷惑よねえ」
【美羽】「ですねえ」
私達は顔を合わせると、声を立てて笑った。
歌奈さんと話しながら関係者席へ座ると、すでに会場の3分の2が埋まっていた。
【歌奈】「へえ、じゃあ美羽はレヴァフェと面識あるのね」
【美羽】「そうですね。デビューが同じだったからテレビ番組で、何度か共演した事があるんですよ」
【歌奈】「なるほどね~」
【美羽】「でも、番組中に少し話すくらいで、楽屋だと4人はいつもメンバー同士で話してるから、顔見知りって程度ですけど」
【歌奈】「それでも十分。私、最近までアメリカにいたからレヴァフェの事はあいつらに聞くまで知らなかったもの」
歌奈さんはカラカラと笑う。
【美羽】「さっきも、ちょっとよろしくないスラングを使ってましたよね」
【歌奈】「ありゃ。日本人にはバレないと思ってたんだけどな」
悪いとは思っていないみたいで、また笑っている。
その笑い方はとても朗らかで、私は好きだった。
【歌奈】「私、アメリカには語学留学してたの。その時におじさんがやってるライブハウスを手伝ってたんだ」
【歌奈】「そこにいたせいかなー。自然とスラングが身についちゃったのよね」
【美羽】「そういう言葉が近くにあると、自然と出ちゃいますよね。
私は小さい時からアメリカに住んでいたので、学校で聞く英語が主流になっちゃってましたね」
【歌奈】「美羽もアメリカに住んでたんだ!」
私が高校1年の時まで住んでいた話をすると、歌奈さんは、時期がずれていたか、と残念そうにした。
【美羽】「夕星とは、やっぱりライブハウスで?」
【歌奈】「そうそう。音石だけじゃなくて、あいつら全員とね。
アッポリが、一時期アメリカで活動してたのは知ってる?」
【美羽】「はい。この前、成海君から聞きました。
その途中で、夕星と会って仲間にしたって」
【歌奈】「その音石をあいつらに引き合わせたのが、私なの」
【美羽】「そうだったんですか! じゃあ歌奈さんは、ap結成の立役者ですね」
【歌奈】「って言っても、ドラムが欲しいって言ってたあいつらに音石がいるわよって教えただけなんだけどね」
【歌奈】「いやあ、最初は申し訳ない事したかなって思ったもんよ」
【美羽】「それでも、歌奈さんが引き合わせなきゃ、今の彼らはないわけだから……すごいですよ」
【歌奈】「そう? えへへ~」
歌奈さんは照れたみたいで、顔を赤くしてはにかんだ。
【美羽】「歌奈さん、これからはずっと日本に?」
【歌奈】「ううん。また海外に行くの。バックパッキングが趣味で、今は、その準備のためにこっちに戻ってるだけなんだ」
【美羽】「すごい……パワフルですね」
【歌奈】「最初は、英語を学んでこっちで活かそうと思ってたんだけどね」
【歌奈】「アメリカで過ごすうちにいろんな国の事をもっと知りたくなったの」
【美羽】「そうだったんですね」
歌奈さんと話をしていると、開演間近になってグリララのメンバーもやってきた。
【裕貴】「お! なんだなんだ? 今日は随分可愛い子と来てるんだな。大学の友達か!?」
【美羽】「ちょっと、裕貴絡まないの! 歌奈さんとはさっき知り合ったばかりなの」
【桔平】「それにしちゃ随分楽しげだったな」
【美羽】「あー、それは……」
私は歌奈さんと顔を見合わせて、お互い苦笑した。
【歌奈】「共通の敵がいたから、かな」
【美羽】「ですね!」
【翼】「……敵?」
翼が首を傾げるけど、気にせず笑う。
そうしてグリララに歌奈さんを紹介しているうちに客席も埋まり、開演を告げるライトが落ちた。
次にライトがつくと、ステージにはレーヴ・パッフェのメンバーが揃っていた。
客席は一気にヒートアップし、歓声が上がる。
流れてきたのは、彼らのデビュー曲
『Christmas Carol』
明るくポップな曲調とは裏腹に、歌詞は結構ダークで、当時話題になったのを覚えている。
それが終わると、続けて
『BEAUTIFUL DREAMER』が流れた。
会場ではピンク色のリングライトが眩く光り、一足早い満開の桜を見ているようだった。
その後MCを挟んで、今度はがらっと雰囲気が変わって硬い曲が流れる。
同じバンドの歌を聴いているのに、まるで別のバンドのような雰囲気。
……なのに統一性がある。
ファンが引き込まれるのも納得だった。
他にも数曲演奏してレヴァフェは一旦終わり、今度はappleーpolisherの番。
ピンク色はあっという間に緑色に変わり、appleーpolisherのメンバーを呼ぶ声が響き渡った。
【成海】『Eve! お待たせ!』
【成海】『ありがとう。俺もEveに会いたかったよ』
『Eve』……とは、appleーpolisherのファンを指す総称だ。
ちなみに、レヴァフェのファンは『Queen』と呼ばれている。
【成海】『さあ、甘いパフェの後は……禁断の果実を食べよう』
それを合図にして、appleーpolisherの演奏が始まった。
appleーpolisherのダンサブルな曲で会場が熱くなり、残すところは後1曲。
メンバー達が汗を拭いたり水を飲んだ後、成海君がスタッフに目配せした。
すると会場の照明が静かに落とされ、青白いピンスポットライトが成海君を照らす。
まるでそこだけ海の底のような美しさで、思わず息を飲む。
会場も同じように感じているみたいで、さっきまでの歓声が一転、シン、と静まり返った。
静寂が、会場を支配する。
成海君はスタンドマイクの位置を調整してから、後ろを振り返る。
すると有紀、黒沢さん、夕星がそれぞれ頷いた。
成海君もそれに返事をするように頷いて、改めて客席を向き、その瞳が静かに閉じられる。
【成海】『this song is dedicated to you.』
タイトルコールの後、夕星がドラムスティックでリズムを刻み……
その音に後押しされるように、成海君が言葉を紡ぎ、歌い出す。
その美しいメロディは、すでに聴いた事があった。
発売前にMVが公式サイトにアップされて、見ていたから。
成海君が作詞という事もあり、喜び勇んで聴いた私は、胸に迫る切なさに涙をこぼしてしまった。
それ以来、聴く事が出来ていない曲。
だってこの歌は、否が応でも私に、成海君の愛の深さを教えてくれる――。
再び聴いたこの曲はやっぱり私の胸を締めつけ、苦しくなってしまう。
知らず知らずのうちに胸を押さえ、唇を噛んだ。
たった1人を想い、成海君が歌詞を書いた事は言葉の端々から伝わってくる。
きっと成海君は、私の知らない誰かに恋をして、その恋は叶わず、悲しい結末を迎えたのだ。
今、ステージの上でこの歌を歌う成海君は、どんな想いでいるんだろう?
考えてみたけど、どんなに想像したって私は成海君じゃないから……分からない。
(もし私が成海君の立場だったら……同じように、願えるかな?)
ふいに浮かんだ疑問に……私は、首を横に振った。
(――出来ないよ。そんな綺麗な感情で、願えない)
(好きになった人の幸せを願いたい気持ちはあっても……私は、成海君みたいには想えない)
(成海君が他の誰かと幸せになる未来なんて……)
その気持ちが浮かんだ瞬間、はっと息を飲んだ。
(ああ……そっか。遠い初恋と思っていたこの気持ちは……)
自覚してしまった瞬間、悲しくて泣きたくなった。
成海君に会えるのが嬉しいのも、話が出来て胸が高鳴るのも、全部、初恋という思い出のせいだと思っていた。
(……けど、違った)
初恋には違いないけど、これはまだ継続中の恋なんだ。
あの日の別れ以来、連絡の手段がなく、会えなくなってしまった時……
私は、自分の気持ちに嘘をついた。
本当は会いたいのに、声が聞きたいのに、触れたいのに……その気持ちを全部、押し殺してしまった。
初恋は終わったんだ、と……心を偽ってしまったんだ。
会えないのなら、こんな気持ち忘れるしかない……と。
なのに――私はまた成海君に出会ってしまった。
appleーpolisherとしてデビューした成海君を見て、私は心の中でひっそり思っていた。
頑張ればいつか、一緒のステージで歌えるかもしれない。
ううん、同じステージじゃなくてもいい。
同じ空間で歌えるだけでもいい。
だから……その日が来る時まで、私は歌おう。
歌を好きでい続けよう、と。
もちろん、会ったからって名乗るつもりはなかった。
ただ、成海君と同じ場所で歌えれば良かった。
あの日、幼い私に成海君は歌をくれた。
その歌のおかげで強くなれて、今の私がある。
感謝の気持ちを、歌で伝えられたら……。
だけど成海君は、私を覚えていた。
あの時と変わらない笑顔を向けてくれた。
願いはどんどん大きくなり、私が殺したはずの気持ちは、溢れ出していた。
成海君の歌う『to you.』を聴いていると、また、涙が零れてしまう。
好きな人が出来て、その人を想い続け、成海君は諦めなかったんだと思う。
でも、叶わなかった。
だけど、その優しさと強さで、成海君は相手の幸せを願っている。
(でも私は……やっぱり、無理。
無理だから……なんて言って、なかった事にもしたくない)
(たとえこの恋が叶わなかったとしても、成海君には伝えたい)
その思いは、私の胸を締めつけた。
――君の幸せに捧ぐ。
最後の歌詞を歌いきると、ドラムの音が終息する。
また静寂が会場を支配する中、成海君の瞳から涙が溢れ、ライトに反射し輝いた。
(成海君、泣いてる……?)
誰も、拍手すら出来ずにそれを見守る。
と、次の瞬間。
【夕星】『なるなる~♪』
真後ろから夕星が飛んできて、そのまま成海君に抱きついた。
【成海】『わっ! Toi!?』
【有紀】『Toiばっかりずるいぞ。俺も混ぜろよ』
今度は上手にいた有紀が成海君を抱きしめる。
【成海】『ちょっと、UKまで……うわっ、わわわっ!』
突然の抱擁に驚いた成海君はバランスを崩し、前のめりに倒れそうになった。
(危ない!)
思わず身を乗り出しそうになったけど、下手の黒沢さんが腕を伸ばし、成海君の身体を支えた。
【成海】『ありがとう、Kuro』
【忍】『気にするな。それより……』
黒沢さんは成海君を立たせてあげてから、彼の右手を持ち上げた。
すると有紀も気づいて、成海君の左手を持ち上げた。
一斉に歓声が上がった瞬間、私の腕に鳥肌が立つ。
それくらい、彼らの演奏と会場の一体感に、心が震えた。
成海君が、有紀が、黒沢さんが、夕星が、ライトなんて関係ないくらい、とても輝いて見える。
大歓声を受けながら成海君は照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑った。
【成海】『ありがとう! appleーpolisherでした!』
成海君の言葉で、更に会場の声が高まる。
ステージで前を向き、手を振る成海君の瞳はとても力強く、何か吹っ切れたように見えた。
その後は、レヴァフェとapのメンバーをシャッフルして演奏したり、ミニゲームをしたり、とにかくステージ上は大騒ぎ。
アンコールでは有紀とRookのツインギターが聴けたりと、また賑やかな雰囲気だった。
最後は、成海君とKingで、レヴァフェの曲『Snow-White』を歌い、ライブは終わりを迎えた。
ライブ終了後、私は成海君に言われた通り、会場裏へ行き、楽屋へと向かった。
歌奈さんは帰るつもりだったらしいけれど、せっかくなんだし、と一緒に来てもらう事にした。
もちろん、グリララの3人も一緒。
【美羽】「えっと、apの楽屋は……」
【龍雄】「美羽ちゃ~ん! こっちこっち~!」
【美羽】「あ、相模原さん」
【裕貴】「おっ、龍雄じゃん」
【桔平】「龍雄だな」
【翼】「龍雄だ」
相模原さんは手を振りながら、こちらへ来た。
【龍雄】「相模原さん、なんてつれない事言わないでさ~、気軽に龍雄って呼んでよ」
【龍雄】「あ! あと敬語もなし!」
【美羽】「そんな失礼な事……」
【龍雄】「いいんだよ~、俺がそうしてほしいんだからさ」
(本人がそうしてほしいって言うんだったらいいのかな……?)
【美羽】「じゃあ、遠慮なく……龍君って呼ばせてもらうね」
【龍雄】「龍君か!? 可愛い呼ばれ方だな~。
俺、嬉しくなっちゃうよぉ!」
龍君はにこにこしている。
虎君といがみあっていた時とは、別人みたいだった。
【龍雄】「あれ? 歌奈ちゃんも来てくれてたの!? 会えて嬉しいよ~」
【歌奈】「龍雄、抱きついたら殴り飛ばすわよ」
【龍雄】「相変わらず冷たいな~。
さすが、夕星とケンカで渡り合えるだけあるよ」
【龍雄】「あ、あいつらの楽屋に行くんだろ? 案内するよ」
龍君は『あっち』と指差しながら先頭を歩き出した。
その後に、私達も続く。
すると、私達の前をやたら背の高い男性と小さな女の子が歩いているのが見えた。
(男の人は黒沢さんくらい……いや、もっと高いかも。
女の子の方は、随分可愛い顔してるなあ)
2人は親しげな雰囲気で話しながら、奥の楽屋へ入っていった。
それを目で追っていると、龍君が振り返る。
【龍雄】「ここが楽屋だよ~」
【美羽】「……じゃあ、奥はレヴァフェの楽屋?」
【龍雄】「うん。なんで?」
【美羽】「さっき入っていった人達はどっちの関係者かなあと思って」
【龍雄】「ああ! あの2人か! 男の方は八雲パイセン!」
【美羽】「やくも……パイセン?」
【龍雄】「ああ、ごめんごめん。俺の先輩でレヴァフェのマネージャーだよ」
【龍雄】「隣にいた女の子は、レヴァフェの招待客。
いつもレヴァフェのライブに来てるみたい」
【美羽】「そうなんだ」
【龍雄】「そんな事より、早くおいで。
あいつらも2人が来るのを待ってたからさ」
【龍雄】「みんなー、美羽ちゃん達が来たよー」

龍君がドアを開けた瞬間、飛び込んできた光景に、一瞬で固まってしまう。
【成海】「わあ、美羽ちゃん。来てくれたんだね」
【美羽】「う、あ……」
【成海】「あれ? どうしたの?」
今まさに服を脱ごうとしていた成海君は、自分の格好が分かっていないのか、きょとんとしている。
見ちゃいけない……そう思っても、視線が勝手に成海君に釘づけになっていると、背後から夕星の笑い声が届いた。
【夕星】「へえ~、美羽ってば純情そうなフリして結構えっちなんだねぇ~」
【美羽】「なっ!」
【有紀】「さっきから成海の事、じっと見てるしな」
【美羽】「っ!!」
【忍】「……何の話をしてるんだ?」
【夕星】「のぞき魔がいるって話~」
【美羽】「違います!」
【有紀】「きゃーえっちー」
【美羽】「ち、ちちち、ちがっ!」
【成海】「有紀も夕星も、なんの話してるの?」
【美羽】「な、成海君ごめん! 私出るから……!」
【成海】「え、なんで? せっかく来たんだから入っていいのに」
【忍】「ああ。そうだな。遠慮するな」
【美羽】「遠慮します!」
【忍】「そんなに慌てて、どうした?」
(黒沢さんはまだ着替えていないから、気づいてないんだ!)
入り口でパニックになっていると、後ろにいた歌奈さんが私の背中を突いた。
【歌奈】「どうしたの? 何かあった?」
【美羽】「わたっ、私は無理ですっ」
【歌奈】「は? どういう事?」
言いながら、歌奈さんはひょい、と肩越しに顔を覗かせた。
【歌奈】「ちょっとあんた達! 変なもの見せてんじゃないわよ!」
【夕星】「げっ! なんでブスがいんだよ!」
【歌奈】「呼んだのはあんたでしょーが! っていうか、まず服を着なさいよ! 美羽が困ってるじゃない!」
【有紀】「あーあ、バラしちゃった」
【成海】「あ、あー! ご、ごめんね美羽ちゃん」

【忍】「俺も……すまないな。気づかなかった」
【美羽】「い、いいえ……!」
【裕貴】「ん? なんだなんだ?」
【桔平】「なんか面白そうな事になってるな」
【翼】「くだらない」
翼に手を引っ張ってもらい楽屋を出ると、歌奈さんが勢いよくドアを閉めた。
その後、3人が着替え終わったところで龍君がドアを開けてくれ、改めて中へ入った。
【歌奈】「来てやったわよ! 感謝しなさい!」
【夕星】「ブスがうるさーい」
【歌奈】「なんですって!? 大体、来いって言ったのはあんたでしょ! なのに受付には私の名前が通ってないし……!」
【成海】「そうだったの? もう、夕星。
招待したなら前もってたつに言わなきゃダメだよ」
【夕星】「歌奈なんか呼んだつもりねーもん」
【歌奈】「あんたねえ!」
【有紀】「はいはい、ケンカしない。
まったく、歌奈と夕星は相変わらずだな」
(歌奈さんと夕星、本当にケンカばっかり。
つい最近の自分と夕星を見てるみたい)
私も歌奈さんのようだったのかもと思い、思わず苦笑してしまう。
【忍】「お前達も来てくれたんだな」
【桔平】「当然だろ。ライバルの演奏はしっかりチェックしないとな」
【翼】「それに夕星が、見に来いってうるさかったしな」
【裕貴】「そうそう! かっこいいトコ見せてやる~ってさ」
【忍】「夕星……そこかしこにケンカを吹っかけてくるな」
【夕星】「なんのことぉ? 僕わかんない~」
有紀から歌奈さんとのケンカを止められた夕星は、話を聞いていたみたいで、わざとらしくとぼける。
そんな夕星に、黒沢さんは大きなため息をついた。
それからは夕星と黒沢さんがグリララメンバーと話を始めた。
【成海】「歌奈、来てくれてありがとう。
こっちにはいつ戻ってきたの? 連絡くれれば良かったのに」
【歌奈】「つい最近よ。ちょっと準備が忙しくって。
ごめんね~」
さっきのケンカが嘘のように、久しぶりの再会に歌奈さんは成海君と会話が弾んでいる。
そんな歌奈さんが羨ましいような、尊敬したいような気持ちでいっぱいになる。
(歌奈さんだって成海君の裸見てたのに……なんで、あんなに普通なの?)
私は、さっきの光景がまだ頭から離れず、心臓がドキドキしっぱなし。
(あーもう! 顔が熱い。これ、絶対赤くなってるよね)
熱を冷まそうと手で顔をパタパタと扇いでいると、成海君と目が合ってしまう。
すると成海君はにっこり微笑み、こちらへやってきた。
(ま、待って! 裸の事もそうだけど、成海君がまだ好きって自覚したばかりだしいろいろ心の準備が出来てない……!)
【成海】「美羽ちゃん、さっきはごめんね? 気づかなくて……。
それから、来てくれてありがとう」
【美羽】「こ、こちらこそ呼んでくれてありがとう!」
【成海】「ねえ、今日の俺達はどうだった?」
(ど、どど、どうしよう。何か言わなきゃ……でもまだ心臓、落ち着かない)
- 成海君の歌を褒める
- 夕星のパフォーマンスを褒める
- 有紀のギターを褒める
- 黒沢さんのベースを褒める
CHOOSE : 成海君の歌を褒める
(お、落ち着いて……ちゃんと感想を伝えなきゃ)
【美羽】「あの……とっても良かったよ。
やっぱり私、成海君の歌が好きだな」
【成海】「良かったー……美羽ちゃんにそう言ってもらえると、すごく嬉しい」
(わぁ! いい笑顔……! まだ心臓ドキドキいってるけど、勇気出して、ちゃんと感想言えて良かった)
CHOOSE : 夕星のパフォーマンスを褒める
(やっぱり心臓もたないっ!)
【美羽】「ゆ、夕星の途中のパフォーマンス、すごかったね!」
【夕星】「僕すごかったでしょ~。
サイコー以外あり得ないからね」
夕星が自信満々に笑うと、成海君も夕星を褒め始めた。
(話が別に逸れたみたい)
私はほっと安堵の息を吐き出した。
CHOOSE : 有紀のギターを褒める
(成海君と話しているとドキドキし過ぎる! ここは有紀に話を振って……)
【美羽】「有紀のギター、初めて聴いたんだけど、いつもの有紀じゃないみたいでかっこ良かった」
【有紀】「ん? お兄さんの話かな?」
【美羽】「う、うん! 有紀のギターの話。
あんなに真面目な顔でギター弾くんだね。
びっくりしたけど、かっこよかったよ」
【有紀】「そんなに褒められると照れるな」
(なんて言ってる割には、普段通りの顔だな。
でも、有紀が話に入ってくれたおかげで、少しは心臓も落ち着いたかも)
CHOOSE : 黒沢さんのベースを褒める
(え、えっと……えっと……!)
【美羽】「や、やっぱり黒沢さんのベースはすごかったよ!」
【忍】「ん……俺か?」
【美羽】「はいっ! グリララのライブで弾いてる時もすごかったけど、やっぱり自分の居場所でベースを弾いている時の方が黒沢さんは輝いてました」
【忍】「そうか。意識していたわけではないが……柊には、そう見えたのか」
黒沢さんは少し気恥ずかしそうに頬を掻いた。
そんな黒沢さんのおかげで、私の緊張も少し和らいだ。
そこへノックの音が響き、スタッフさんが顔を出した。
【ライブスタッフ】「楽屋打ち上げの用意が出来ましたー」
【有紀】「はいよ。じゃあみんなで廊下に出ますか」
【成海】「歌奈と美羽ちゃんも行こう」
【歌奈】「ええ!? でも、私は関係ないでしょ」
【夕星】「ブスが遠慮なんかすんなよ、気持ち悪い」
【歌奈】「普通するでしょ! っていうか何回ブスって言ってんのよ。
いい加減しつこい!」
【美羽】「もう……夕星はそれ以外言えないの? 歌奈さんはどう見ても可愛い人よ」
【歌奈】「美羽は優しいのね!」
【夕星】「ブス同士気が合うのぉ? ちょお笑えるぅ~」
【歌奈】「ブスって言うな!」
【美羽】「ブスって言うな!」
【龍雄】「あはは! 2人とも息ピッタリだねえ。
あと打ち上げに関しては、本当に遠慮しなくて大丈夫だよ」
【龍雄】「可愛い子はいくらいても嬉しいからね~」
【忍】「たつおの言う通りだ。
別に今更1人や2人増えたところで、変わらない」
【桔平】「そういう事! ってわけで、今日も飲むぞー!」
【有紀】「飲むぞー!」
【忍】「……な。こういう事だ。気にするな」
【美羽】「桔平はもうちょっと遠慮しなよ……」
【翼】「そいつが遠慮なんて出来るわけないだろ」
【裕貴】「あいつとひろとは、本当に遠慮なしだったよな」
話しながら先に楽屋を出た裕貴と翼。
その後を追うように、私も歌奈さんと廊下へ出た。
廊下には、ライブスタッフにappleーpolisherサイドの招待客、レヴァフェサイドの招待客。
そして両バンドのメンバーと、かなりの人数が溢れていた。
ちょっと狭いくらいで、私はぶつからないよう壁に寄る。
各バンドのメンバーは中央へ。
【ライブスタッフ】「みなさーん、乾杯用のジュース用意してるんで、受け取ってくださーい」
【有紀】「ビールは?」
【ライブスタッフ】「青井さん、本当にビール好きだね。
はい、こっちにありますよ」
【有紀】「ありがとな」
【忍】「まったく、後で飲めばいいだろうに」
【龍雄】「2人とも、はい! ジュース。
オレンジで良かった?」
【歌奈】「お、龍雄気が利くわね~!」
【美羽】「ありがとう、龍君」
【龍雄】「いやいや、どういたしまし……」
【夕星】「たつおジャマ!」
【龍雄】「いてぇ! おい、夕星! 蹴るな!」
龍君は私と歌奈さんにジュースを渡し、そのまま夕星と共に中央へ戻った。
それから歌奈さんと雑談しながら周りを見ていると、さっきレヴァフェのマネージャーさんと楽屋に入っていったあの女の子を見つけた。
彼女も同じように壁に背を預け、ぽつんと佇んでいる。
居場所がないというよりは、邪魔にならないように壁際にいる感じがする。
思わずじっと見ていると、目が合った。
(あっ、目が合った)
彼女は不思議そうにこちらを見ていたけど、どうやら私を知っているらしく、目を大きく見開いた後慌ててぺこりとお辞儀をした。
私も軽く頭を下げてお辞儀を返すと、嬉しそうな顔でまた頭を下げた。
その間に、黒沢さんとRookが場のみんなに声をかけた。
2人はバンドのリーダーとして、それぞれ挨拶とお礼を告げる。
まず、Rookが挨拶をする。
バンドをまとめるリーダーらしく、丁寧で堂々とした挨拶が終わると拍手が起こる。
そして次は黒沢さんの番。
【忍】「今日は合同ライブに力を貸してくれて感謝する。
俺は……あまり、こういった場面で話すのは得意じゃないんだが……」
【忍】「ここにいないスタッフも含めて、このライブのために力を貸してくれたすべてのスタッフがいたからこそ、こうしてライブを開催出来た」
【忍】「しかも去年に続き、こんなに楽しいライブが出来て……本当に、嬉しかった。ありがとう」
【忍】「改めて、俺達はいろんな人によって支えられていると……」
【夕星】「忍ぅ~なが~い!」
【???】「だよなー。さっきの久遠の挨拶も長すぎだし! さくっと乾杯しようぜ! さくっと!」
夕星の隣で一緒になって文句を言っているのが、レーヴパッフェのヴォーカル、Kingだ。
2人が『長い長い』と文句を言うので、リーダー2人は顔を見合わせて苦笑する。
そして……。
【忍】「乾杯」
黒沢さんとRookの2人で乾杯の声をかけた。
乾杯すると場は更に賑やかになり、あちこちで移動が始まる。
【歌奈】「はい、かんぱーい」
【美羽】「乾杯」
【歌奈】「……ぷはぁ! おいし~!」
【美羽】「ですね」
【歌奈】「おいしくて、これじゃあすぐ飲み切っちゃうわね。
私、新しいジュース取ってくるわ」
ジュースの元へ向かった歌奈さんを見送って、今度は成海君を探す。
(成海君と乾杯したいんだけど……人が多すぎて見当たらない)
キョロキョロと視線を彷徨わせていると、成海君が、あの壁際にいた女の子に声をかけていた。
【美羽】「あ……」
そして、2人はそっと乾杯する。
(彼女とも知り合いなんだ。じゃあ、話終わりそうなタイミングを見計らって……)
そう思ってじっと見ているうちに、私は気づいてしまった。
(成海君の好きな人って、もしかして……)
別の意味で目が離せないでいると、そこにKingが割って入った。
Kingをたしなめる女の子、不機嫌そうな成海君。
Kingは唇を尖らせながら、成海君を手で追い払う仕草をした。
すると成海君は眉を吊り上げて食ってかかる。
そんな成海君にお構いなしにKingは紙コップを掲げると、成海君は不満そうな顔をしながらも、乾杯をした。
そのまま3人は、楽しそうに話し出した。
(ああ、やっぱりそうだ……)
【???】「……気づいちゃった?」
すぐそばで声がして、顔を上げる。
すると隣に、夕星が立っていた。
彼の言いたい事の意味なんて、聞かなくても分かる。
だから、黙って頷いた。
【美羽】「……あの子、なんだね」
【夕星】「そう。成海の初恋はあの子」
【夕星】「最近まで好きだったっぽいけど……もう諦めたみたい。
あんたは気にする必要ないんじゃない?」
【美羽】「別に……」
『そんなんじゃない』とはっきり言えず、口を閉ざす。
【夕星】「あの子のどこがいいのか、僕にはさ~っぱり分かんないけど……
成海には、宝物だったみたいだね」
【夕星】「だけど、その宝物は、別の誰かの宝物で……あの子にとってもそいつが宝物だった」
【夕星】「哀れな王子様は、いいお友達どまりでしたぁ~。
ちゃんちゃん」
【夕星】「……悪気はないんだろうけど、残酷だよね」
【美羽】「……意外。
夕星、ちゃんと周りを見てるんだね」
【夕星】「んん~? 何のことぉ~」
いつもの調子に戻ったと思ったら、夕星は急にこちらへ顔を近づけた。
【夕星】「どう? 成海の恋が叶うことはなくて安心した? 可能性がなくてチャンスだと思った?」
意地悪い笑顔がこちらに向けられる。
【美羽】「確かに、成海君には悪いけど……安心したっていう気持ちはある」
【美羽】「チャンスだとも思った。でも……」
言葉を濁して、唇を噛んだ。
自分の表情が、どんどん曇っていくのが分かる。
【夕星】「でも?」
【美羽】「初恋が、自分の中でどれだけ大きいか、さっき実感したばかりだから……
安心してる自分が嫌になる」
【夕星】「……いいんじゃない? それで」
【美羽】「どういう事?」
『さぁね~』と夕星はひらひら手を振って、どこかに行ってしまった。
(からかいに来たのかな)
よく分からないままジュースに口をつけ、ため息をつく。
(でも……そっか。やっぱりあの歌の歌詞は、あの子への気持ちを諦めたからこそ書けたんだ)
(すごいな、成海君は。
私なんて、成海君の想いに気づいても、諦めきれないでいるのに……)
成海君の想い、そして私の想いに足をすくわれそうになっていると、視界を遮るようにして有紀がやってきた。
【有紀】「どうした? 浮かない顔してるな」
【美羽】「ちょっと、考え事をしてたの」
【有紀】「こんな場所で考える事と言えば……ひとつしかないな」
有紀はわざとらしく微笑み、成海君に視線を向けた。
その動きで、成海君の姿がまた見えるようになる。
【有紀】「やっぱり、好きなのか?」
【美羽】「……はあ。夕星といい有紀といい、察しがいいね」
【有紀】「まあね。伊達にたくさん恋してませんから」
そう言っておどけて見せる有紀。
(来る者拒まず去る者追わずは、恋なの?)
居酒屋での話が脳裏を掠める。
【有紀】「まあ、悪い事は言わない。
傷が深くならないうちに諦めるんだな」
【美羽】「……それが出来たら、苦労はしないよ」
有紀から顔を逸らすと、成海君と目が合った。
すると成海君はぱっと目を輝かせて、私に向かって手招きする。
【美羽】「え……え?」
戸惑っていると、有紀が小さく笑った。
【有紀】「成海はお前を友達に紹介したいんだろ。
ほら、行ってきな」
有紀に背中を押されるまま、私は成海君の元へと向かった。
(今は、成海君の幼なじみの柊美羽を演じよう。
今は、そうしなきゃ)
しっかり自分の心に言い聞かせて、目の前で足を止める。
【美羽】「どうしたの? 成海君」
【成海】「美羽ちゃんに一応、玲音達を紹介しようと思って」
【成海】「さっきライブ見たから分かると思うけど、彼が、レヴァフェのヴォーカルのKingで、残念な事に俺の幼なじみの、香椎玲音」
【玲音】「残念って言うな! ったく……」
【玲音】「あれ? お前……」
【美羽】「覚えてない? 何度か共演してるんだけど……私は、シンガーのMiuこと、柊美羽です」
【玲音】「覚えてるっつーの! 前はよくテレビ番組で一緒になったよな」
【玲音】「んじゃ、改めてよろしくな」
【美羽】「香椎君の事、ずっと近寄りがたいと思ってたけど、テレビの収録で見かける時より、今の方がずっと親しみがあるかも」
【玲音】「お前、はっきり言い過ぎだろ」
【美羽】「褒めてるの」
【玲音】「そりゃどうも。てか、そのセリフそっくりそのままお返しするよ」
【玲音】「なーんかツンツンしてんなあって思ってたけど、普通に笑って話せるんだな」
香椎君は人好きのする顔で笑った。
【美羽】「香椎君もね」
【玲音】「香椎君って……玲音で良い。
オレも美羽って呼ぶし。良いよな?」
【美羽】「もちろんだよ。よろしく玲音」
【玲音】「ああ。にしても、さっきの言い方といい……なんか美羽って、成海みたいだよな」
【美羽】「えっ……!?」
まさか似てるなんて言われると思わなくて、私の胸は自然と高鳴ってしまった。
【成海】「玲音、それは美羽ちゃんに失礼だろ」
【玲音】「そうか? 本人はそう思ってないみたいだけど?」
【美羽】「べっ、別に!」
【成海】「ごめんね、美羽ちゃん。
玲音はこの通り失礼なヤツだけど、気にしないでやって」
【美羽】「う、うん」
【玲音】「おい! 失礼とはなんだ! お前の方が失礼だろ!」
【成海】「玲音の失礼さに勝てる人はいないね」
それから成海君と玲音の言い合いが始まった。
(成海君も、こんな風に歳相応に怒ったり、言い合ったりするんだな)
今まではメンバーのそばにいたから少し大人びて見えていた。成海君の新しい一面が見れたようで、嬉しくて笑みが溢れてしまう。
【成海】「あれ? なんで笑ってるの?」
【美羽】「ううん……ふふっ。なんでもない」
【玲音】「笑いながら、なんでもねーって言われてもな」
成海君と玲音は顔を見合わせ、首を傾げた。
【成海】「あ、そうだ。玲音。美羽ちゃんも同じ黒芸大なんだよ」
【玲音】「へえ。美羽も声楽科なのか? 見かけたことねーけど」
【美羽】「ううん、作曲科」
【玲音】「じゃあ、うちのつむぎと同じだな。
そうだ! ついでに紹介してやるよ」
玲音は残りのメンバー3人も呼んでくれた。
【玲音】「こいつがベースのBishopこと、百瀬つむぎ。
んで、さっき挨拶してたのがうちのリーダーで、ギターのRookこと、月野原久遠!」
私は改めて百瀬君と、そして月野原さんと初めましての挨拶を交わした。
【玲音】「んで、こっちがレヴァフェのドラム担当で作詞担当のKnightこと、香椎亜貴!」
【亜貴】「は、はじめまして……」
【美羽】「はじめまして、よろしくお願いします。
成海君から聞いてます。玲音のお兄さんだって」
【玲音】「そっ! オレの兄貴! かっこいいだろー! かっこいいよな!」
【亜貴】「も、もう玲音! そんなに言われたら照れるよ」
香椎さんは本当に恥ずかしいみたいで、壁際にいた例の女の子を私の方へ押し出してきた。
【亜貴】「僕の話なんて、聞きたくないでしょ。
それより、うちの最後のメンバーを紹介しなくちゃ」
【美羽】「最後のメンバー?」
【亜貴】「そう。彼女も僕達の大事なメンバーなんだよ」
【美羽】「でも、ステージにはいなかったような……」
【亜貴】「彼女はレヴァフェの、影のメンバーなんで……」
【亜貴】「僕達がデビューする前から、マネージャーとして手伝ってくれていたんです。ね?」
香椎さんに紹介され、彼女もまた照れくさそうにしている。
それから私達は、改めて挨拶を交わした。
【成海】「彼女の母親が、俺の母さんのお姉さんでね。
俺達は従姉妹なんだ」
【美羽】「ああ……そうなんだね」
やっぱりか、と理解する。
(この子が成海君の、歌を好きなったきっかけで、成海君の恋心を注がれていた相手なんだ。
いいな……)
その先はとても汚い感情が渦巻いていて、自分が嫌になる。
でも、私はそんな汚い感情を胸の中に隠して笑みを浮かべ、話に加わる。
【玲音】「へえ、美羽も小さい頃の成海を知ってんのか」
【美羽】「そうなの。でも、たった1年しか遊べなかったから、まさかこうして再会出来ると思わなかったんだ」
【玲音】「でも、テレビに出てた成海にすぐ気づいたんだろ。
ならお前の方がえらい!」
【亜貴】「彼女は成海ちゃんの事、ずっと女の子だと思ってたもんね」
香椎さんにバラされ、彼女は顔を真っ赤にしてしまう。
そんな彼女を囲んで、他のメンバーもその時の事をネタにからかって笑っていた。
でも意地悪というよりは、親しい間柄だからこそ、そんな言い合いが出来るんだろうな、という感じだった。
とてもその輪に入る勇気はない。
それは、成海君も同じだったみたいで……。
【成海】「……」
彼女を見る成海君の目が切なく揺れる瞬間を、私は見逃さなかった。
レヴァフェメンバーとの挨拶を終え、他の人に声をかけられている間に、打ち上げも終盤に差し掛かった。
【忍】「そろそろ片付けた方がいいな」
黒沢さんのそんな声が聞こえてきたので、私はぐるりと周りを見渡す。
(せっかくだし、最後に誰かと話したい……)
- 成海君と話したい
- 夕星に話しかけてみよう
- 有紀と話してみよう
- 黒沢さんとまだ話してない
CHOOSE : 成海君と話したい
(やっぱり、もうちょっと成海君と話したい)
私は、ちょうど1人だった成海君の元へ向かった。
【美羽】「成海君。ライブ、本当にお疲れ様。
今日のライブ、本当に楽しかったよ。
こうしてまた生で成海君の歌が聴けて良かった」
【成海】「美羽ちゃん、ありがとう。
俺も、やっぱり歌は生で聴いてもらいたいって思うんだ。
もちろん、ライブだけがすべてじゃないとは思うけど」
【成海】「ライブでEve達と一体になれて……今日からまた、心機一転頑張ろうって思えた」
【成海】「俺、やっぱり歌う事が好き」
【成海】「メンバーと音楽をしている時が大好きなんだ。
これからも、たくさん歌いたい」
【美羽】「成海君……」
【成海】「なんて、ちょっと熱くなったね。
何故か、美羽ちゃんには本音を話せるんだ。
気が緩むのかな?」
成海君にとって気が緩むような相手になれている。
それだけで、なんだか嬉しくなれた。
【成海】「美羽ちゃんは? またライブしたい?」
【美羽】「もちろん! だって……私も、歌が好きだから」
【成海】「じゃあ俺達、仲間だね」
嬉しそうに笑って言うもんだから、私も嬉しくて……熱くなる頬をそのままに成海君と笑い合った。
CHOOSE : 夕星に話しかけてみよう
(さっき、まともに話せた気がするし……夕星に話しかけてみよう)
ちょうど私の前を夕星が通りかかったので、名前を呼ぶ。
【美羽】「ねえ、夕星……」
【夕星】「ふんふんふ~ん♪」
【美羽】「もう……夕星!」
【夕星】「っ! うるさい、話しかけんな」
【美羽】「え……?」
【夕星】「今そこに、すっごい美人がいたんだよ! 今夜の相手はあの子しかいないでしょ」
【夕星】「って事だから、ナンパの邪魔すんなよ」
【美羽】「だったら尚更邪魔しなきゃいけない気がする!」
【夕星】「なんでだよ! どっか行け! しっしっ!」
手で払うような真似をされるけど、気にせず夕星の後をついていく。
あっちにスタスタ、こっちにスタスタ。
【夕星】「……」
【美羽】「……」
【夕星】「っだぁー!!! なんなんだよ! ジャマっつってんだろ!」
【美羽】「だからー、邪魔してるんだってば」
【夕星】「あんたがいるとナンパできないんだけど! それとも、あんたが相手してくれんの?」
【美羽】「するわけないでしょ? 何言ってるの。
ただ私は、遊びで女の人と付き合うのは良くないと思って止めに入ってるだけ」
それをちょうど聞いていたみたいで、歌奈さんが紙コップを持った手を上げた。
【歌奈】「ふふん、音石、いい気味ね~。
これに懲りて、少し大人しくしたら?」
【夕星】「もー! なんなんだよ!? なんで今日は、こんなにうるさいブスが2人もいるわけ!?」
【歌奈】「あんたが私を呼んだんでしょうが」
【美羽】「私は成海君に呼ばれたから。
って事なので、今日は観念しなさい」
【夕星】「Shit!」
夕星は舌打ちをして、ナンパを諦めた。
CHOOSE : 有紀と話してみよう
(さっき背中を押してもらったし……お礼を言っておこうかな)
さっそく有紀を見つけたので、声をかけようと近づいた時だった。
【有紀】「あ」
有紀は持っていた紙コップを傾け間違えたらしく、そのままビールをこぼしてしまった。
【美羽】「もー! 何してるの!」
すぐそばへ行き、持っていたハンカチで有紀の服を拭く。
【有紀】「あはは、こぼしちゃった」
【美羽】「笑ってる場合じゃないでしょ」
【美羽】「はあ、この前もビールこぼしてたし……有紀って本当によくビールこぼすんだね」
酔っているのか、締まりのない顔で笑う有紀に呆れてしまう。
【美羽】「口の端にも泡がついてるから、ティッシュで拭いて。
はい、どうぞ」
【有紀】「用意いいな。どうも」
そこへ、グリララのメンバーがやってきた。
【裕貴】「なんだなんだー? 美羽は有紀の世話焼いてんのか」
【翼】「……美羽、有紀の嫁みたいだな」
【美羽】「はあ!?」
【桔平】「あはははは! 嫁! 良かったなー有紀! 若い嫁さんが出来て!」
【美羽】「ちょっと! からかわないで! 有紀も否定して!」
【有紀】「ははは。俺、養っていけるかな」
【美羽】「冗談言って、笑ってないでよ!」
私が拗ねても、有紀は笑うばかり。
(有紀っていつもは大人なのに、時々、子どもみたいなところがあるんだよね……不思議な人)
CHOOSE : 黒沢さんとまだ話してない
(そうだ。まだ黒沢さんとあんまり話してない)
近くにいた黒沢さんに声をかけようとすると、向こうから気づいて近寄って来てくれた。
【忍】「今日は、来てくれて感謝する」
【美羽】「こちらこそ、素敵な演奏を聴かせてくれて、ありがとうございました」
【美羽】「黒沢さんはグリララのライブもあったから、余計疲れてますよね。本当に、お疲れ様です」
【忍】「俺を気遣う必要はないんだぞ? だが、まあ……ありがとう」
黒沢さんは照れくさそうにメガネを押し上げた。
【忍】「そっちはどうなんだ? 打ち上げ、楽しめているか?」
【美羽】「はい! 成海君のおかげでレヴァフェメンバーとも挨拶出来たし、楽しませてもらっています」
【忍】「そうか、なら良かったな」
笑い合っていると、後ろから有紀と夕星の声が聞こえてきた。
【夕星】「あはは~! ゆっけおもしろ~い。
じゃあその調子でぇ、もう1本ビール開けちゃえ!」
【有紀】「仕方ないなぁ。ビールも俺に飲まれたがってるし、飲んでやるか」
【忍】「まったく、あいつらは……おい、酔っぱらい。
ふざけてないで、帰る準備をしろ」
【有紀】「え~? でもビール……」
【忍】「それはまたいつでも飲めるだろう。
夕星も、酔っぱらいを煽るんじゃない」
【夕星】「ちぇーっ。くろくろノリわるぅーい」
【忍】「おい……」
【夕星】「忍、顔こえーって」
【忍】「まったく、お前達は少し大人しくしていろ」
2人をたしなめる黒沢さんはリーダー然としていて、とても大人っぽく見えた。
【ライブスタッフ】「そろそろ打ち上げも終わりたいと思いまーす」
スタッフさんの声がかかると、最初の挨拶とは違い、今度はヴォーカル組が中央へとやってきた。
【玲音】「今日は本当にありがとうな! オレ、すっごい楽しかった!」
【成海】「それは俺も同じ。スタッフのみなさん、本当にありがとうございました」
【成海】「出来れば……また一緒にお仕事しましょう」
【玲音】「今度もまた最高のステージにしような。
よろしくー!」
成海君と玲音の挨拶が締めとなって、打ち上げはお開きとなった。
【桔平】「美羽ー、帰るだろ?」
【美羽】「うん!」
【翼】「オレ達の車に乗っけてやるよ」
【美羽】「ありがとう! じゃあ最後に挨拶だけ」
【裕貴】「いってらっしゃ~い!」
私は、レヴァフェメンバーやあの女の子、龍君、歌奈さんへ挨拶して回った。
【美羽】「成海君!」
【成海】「美羽ちゃん、もう帰るの?」
【美羽】「うん。今日は誘ってくれて、本当にありがとう」
【成海】「俺こそ、観に来てくれてありがとう」
【美羽】「私の方こそ、招待してくれてありがとう」
【有紀】「楽しんでもらえたか?」
【美羽】「とっても楽しめたよ! それにかっこよかった」
【夕星】「また観に来てもいいよぉ~。
僕がサイコーの音を聴かせてあげる」
【美羽】「仕方ないから、期待しててあげるわね」
【忍】「気をつけて帰りなさい」
【美羽】「はい! みなさん、お疲れ様でした」
appleーpolisherのメンバーにも
別れを告げると、私は桔平達と共に一足先に帰路へついた。
お風呂から出て、部屋へ戻るとベッドの縁へ座った。
部屋の中には随分ダンボールが増えたけど、相変わらず進捗は芳しくない。
(引っ越しまで、あと4日……早くしないと)
そう思う気持ちはあるのに、片付けは一向に進まない。
【美羽】「はぁ……」
自分のゆるさにため息をついて、ベッドに寝転んだ。
(あと少しで引っ越しっていう事は……もうすぐ成海君の家で暮らすって事なんだよね)
今日、成海君への初恋はまだ継続しているとはっきり自覚してしまった。
そんな私が、成海君と一つ屋根の下で暮らす。
最初はただ毎日成海君と会えるということが嬉しかった。
でも今は……。
(今日みたいな着替えシーンとかを目撃する可能性があるって事だよね)
今思い出しても恥ずかしくて仕方ないのに、今後同じ事があったらと思うと、心臓が飛び出しそうでベッドの上でジタバタする。
(あー……そっか。夕星が前に言ってた、苦労するってこういう事だったのか)
納得すると同時に、夕星はあんなに早くから私も気づいていない私の恋心に気づいていたのかと驚く。
(本当に、よく見てるな)
呆れてため息をつく。と、ふいに、今日見た、成海君の従姉妹の女の子を思い出した。
(成海君も、あの子と会えた日や、話せた日はこんな風にドキドキしてたのかも)
(でも……そのドキドキを、諦めたんだよね)
成海君のドキドキはあの子への感情で、それが私に向けられる事はない。
たとえもう諦めていたとしても……今日の成海君を見る限り、まだ気持ちの区切りがついてなさそうだった。
それが分かるだけに、胸が痛いし……私には、まだ諦めるなんて苦しい思いは、出来そうになかった。