【仁菜】「加賀さん、今日は会議室でパーティーをする許可をもらってきてくださって、本当にありがとうございます」

【真実】「まあ……せっかくの記念日ですから。あなたからパーティーがしたいと言い出された時は、驚きましたが……」

【仁菜】「ふふ。今日が記念日だってメンバーのみんなに聞いてから、ずっとみんなのために何かしたいと思っていたんです」

【真実】「そうですか。……ところで何ですか? あなたのその、大荷物は」

【仁菜】「これは、パーティーのために色々と準備してきたんです。お祝いのケーキや、みんなの好きなお菓子に、それから……」

【真実】「やっぱりあなたは、何かにつけてお菓子なんですね」

【仁菜】「で、でも! 今回はお菓子だけじゃありませんよ」

【真実】「と、言いますと?」

【仁菜】「実は、わたしもこの場所を飾り付けようと思って……こんなものも準備してきました」

わたしが取り出したのは、B4サイズのコルクボード。
それからマスキングテープやシールといった、文房具の数々だ。

【仁菜】「それから、あと……これです」

そして最後に、写真の束を取り出した。

【真実】「この写真は……メンバーの?」

【仁菜】「はい。夏フェスの日、メンバーみんなと撮ったものです」

【真実】「ああ……4人がそれぞれ、 自分が双海さんとツーショットを撮るんだと、やかましく騒いでいた、あの時の写真ですか」

【仁菜】「え、ええと……そ、そんなこともありましたね」

当時のことを思い出して、頬が熱を持ってしまう。

【真実】「それで? この写真で何をするんですか?」

【仁菜】「このコルクボードに写真を貼るんです。そしてテープやシールでデコレーションをして、みんなの思い出を綺麗に飾ろうと思って」

【仁菜】「パーティー会場に思い出の写真が飾ってあったら、みんなもそれを見て盛り上がるかなって思ったんです」

【真実】「ああ……なるほど、そういうことでしたか。確かにメンバーは喜びそうです」

【仁菜】「本当ですか? ふふ、みんなのことを良く知っている加賀さんがそう言ってくださるなら、自信が持てます」

【仁菜】「それじゃあ、さっそく思い出ボードを作りますね」

わたしは手近な席に腰掛け、意気揚々とコルクボードに写真を並べていく。

写真はたくさんあるので、全部をボードに貼ることは出来ない。

どの写真を使おうかな? どんな風に並べようかな?
……なんて悩んでいる時間も、うきうきと心が弾んでしまう。

【仁菜】「あ! 良かったら加賀さんも、一緒に写真を選んでくれませんか?」

【真実】「私が、ですか? そういうのは、私はあまり向いていないと思うんですが……」

【仁菜】「わたし1人だと、迷いに迷って、時間がかかってしまうので……」

【真実】「……仕方がありませんね」

そう言って、加賀さんはわたしの隣の席に座り直し、机に並べられた写真を数枚手に取る。

【真実】「……へえ。どの写真も、メンバー全員良い顔をしていますね」

【仁菜】「ですよね! みんなとっても楽しそうに笑っていて……どれもお気に入りなんです」

――大成功をおさめた夏フェスの夜。

今にも降り出さんばかりの星空の下でみんなで撮った写真は、どれもメンバーみんなの楽しげな笑顔で溢れている。

加賀さんは写真をじっと見つめると、ふいに何だか物憂げな息を吐く。

【仁菜】「加賀さん? どうかされましたか?」

【真実】「いえ……。メンバーの こんな無邪気な笑顔の写真を見るのは珍しいな、と。仕事の撮影では、こんな顔をすることはありませんから」

【仁菜】「あ……確かにそうですね。お仕事で撮られた写真は、みんなかっこ良い表情をつくっていますから」

【仁菜】「お仕事の写真も、もちろんとっても素敵ですが……こんな風に自然体の笑顔も、やっぱり良いですよね」

【真実】「そうですね……」

加賀さんは何枚か写真を見ると、ある一枚をわたしに差し出す。

【真実】「私は、この写真が良いと思いますよ」

【仁菜】「……あ! わたしと、メンバーのみんなの5人で撮ったものですね」

【真実】「全員、良い顔をしています。メンバーも、あなたも」

【仁菜】「ふふ、わたしもこの写真、お気に入りなんです。じゃあ、これをボードの真ん中に貼ることにしますね」

加賀さんがボード作りに参加してくれたことが嬉しくて、わたしはにこにこと写真を見つめてしまう。

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