中に引きずり込まれ、バタン、と音を立ててドアが閉まる。
その瞬間——。
【美羽】「んぅっ……!」
【有紀】「ん……ちゅっ……ん……はあ……」
壁に押しつけられ、乱暴に唇を塞がれた。
今までの、どのキスとも違う。噛みつくような獣の強引さに、呼吸を奪われる。
このままだとまた流されてしまう……
頭ではダメだと分かっているのに、身体が勝手にこの人を求めてしまうのだ。
何度か唇を合わせる位置を変え、貪るようにキスを繰り返す。
高まっていく熱にくらくらしてくる。
本音をさらした後さえも優しかった有紀の手つきは、
今は荒く、そこに大人の余裕はどこにもなかった。
【有紀】「っ、クソッ……」
手がもつれて、舌打ちをする。
苛立ちをぶつけたいのはこちらなのに。
【美羽】「へたくそ」
【有紀】「はぁ?」
顔を上げた瞬間、今度は私から噛みついた。
そうしてまた、何度もキスを重ねていく。
繰り返されるキスと、外を走る車のクラクション、私と有紀の、乱れた呼吸音。
玄関で、その音が混ざり合って響く。
指先でなぞられると、熱でとろけてしまいそうになる。
【美羽】「ねえ……」
やっと唇を離して呼吸出来たところで、声をかけた。
【美羽】「昨日……あの人といたの?」
【有紀】「……ああ」
【美羽】「っ!」
有紀は一度口を開いた後、少し躊躇って……
それから、ため息をついた。
【有紀】「けど、何もしてない」
【美羽】「どうして……」
【有紀】「どうしてだろうな。お前の顔がちらついて、
何もする気が起きなかった」
【美羽】「何それ」
【有紀】「さあ、なんだろうな」
またはぐらかそうとする。
それに苛立って、有紀を睨みつけた。
【美羽】「そんな事言うなら、もう二度と私以外の女に手を出さないでよ」
【有紀】「それは約束出来ない」
【美羽】「……言うと思った」
【美羽】「なら、今日で最後にする。
有紀が好きになってくれないなら、今度こそ来ない。
明日からは、ただの知り合いに戻る」
【美羽】「そういう努力する。だから……」
【美羽】「今だけは私を見て」
どうしようもなく好きだから。
嫌いで、大嫌いで、それでも好きだから。
最後のお願いに、有紀は悲しそうな顔で頷いた。
【有紀】「……分かった。おいで」
そう言って今度は優しいキスを落とすと、
お姫様抱っこで私を抱き上げ、ベッドへ運んだ。