【翼】「この前まで恋も知らないガキだったくせに」

【桔平】「偉そうに言ってくれるよなあ」

【翼】「こいつはお仕置きが必要だな。

桔平、裕貴。やってしまえ」

【美羽】「え? え?」

【桔平】「おりゃおりゃおりゃ〜!」

乱暴な2人にギャーギャーと騒ぐけど、

この人達なりの愛情表現だと分かってるから、嬉しい。

ひとしきり私の髪をボサボサにすると、

満足した3人は、テーブルの上のおつまみを口に運びながら話しの続きを始める。

【桔平】「先週のアッポリのライブも良かったよな。

アジアを回る良い弾みになったんじゃないか?」

【裕貴】「だなー。夕星も相変わらずぶっ飛んでたし! ほんと面白いよ、あいつ。

忍と有紀も、タガが外れてたっつーか、弾けてた!」

【翼】「ああ。歌姫さんもだけど、あいつらも、この1年で驚くほど成長したよ。

正直、見てて飽きない」

去年の秋、apple−polisherは新曲を含めたミニアルバムの発売が決定。

それとほぼ同時期に、アジアの数か所を回るツアーが発表された。

先日の東京公演は、その封切りだったのだ。

【翼】「Miuとしては、悔しい気持ちもあるんじゃないか?」

乱れた髪を整えている私に、翼が聞いてくる。

確かに、国外を含むツアーは私も目標とする1つだった。

【美羽】「ライバルとして、悔しくないって言ったら嘘になるよ。

でも、私は私のやれる事をやるだけ」

【美羽】「他と比べて焦ったって仕方ない。

それに、apple−polisherのファンとしてはすごく嬉しいしね!」

前回は粗削りさが残っていたライブ。

でも、今回は曲の魅せ方やお客さんとのコール&レスポンスがしっかりと出来ていたと思う。

【美羽】「何より、4人ともすっごく楽しんでた」

自分達が楽しければいい、じゃなくて見に来てくれた観客、ファンのみんなを巻き込んで楽しむ。

そんな4人の気持ちが伝わってくるライブだった。

【美羽】「でも! 私の方がライブを楽しむ自信、あるけどね!」

そう言い放つと、3人は「それでこそ歌姫さんだな!」と大笑いした。

【裕貴】「お! 載ってる載ってる。ほら、見てみろよ」

スマホをいじっていた裕貴が、画面をこちらに向けてくる。

画面に写っていたのは、雑誌『Gravity Music』のweb版記事。

ちょうど話題にしていたapple−polisherのライブツアー特集記事だった。

その記事では彼らが去年出演したライブを振り返るとともに、ステージを写した写真も載っている。

【美羽】「さっき話してた夏フェスとハロウィンライブの写真もある!」

写真に写る恋人の姿を、ついじっと見つめてしまう。

夏フェスとハロウィンライブには、私とグリララの3人も写り込んでいた。

(ふふ……ステージでの顔、好きだな)

(でも、やっぱりライブツアーでの写真が一番良い顔してる……)

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